第1話「切ない猫の交換日記」-1

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平屋の家は車椅子で生活するのに困らないが、こういう時は正直めんどくさい。 小学校の時は二階建ての家にあこがれて父を責めて困らせたのに、まことに自分勝手なことだと思う。 車椅子という生活に何も感じなくなった頃。 季節は秋から冬に変わり、たそがれる街をわたしは窓から眺めていた。 家に引きこもるわたしは、一日中外の景色を眺めてすごしているかもしれない。 早冬の外の景色は、たれこめる灰色の雲が冷たく、街を冬色にしている。 窓を開けると容赦なく冷たい風が、孤独なわたしの部屋に侵入する。 まるで部屋の温度に染まったわたしを、冷たく暗い外界に誘うように。 メス猫のココアが寒いよという風に「にゃん」と鳴いた。 父のいない家の中で車椅子のわたしと一緒にいるのは、メス猫のココアだけだ。 母を亡くした慰めにと、父が知り合いからもらってきてくれたのだ。 ココアはジャパニーズボブテイルのシナモンで雑種だ。毛色がシナモンというよりココア色なのでココアと名付けた。 だけどほとんど寝ていて、呼びかけても「にゃん」とひと声鳴くだけ。
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