第1話「切ない猫の交換日記」-1

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ちいさなメモ用紙で、 『この子にエサをあげないでください』 そんな文句が、丁寧だけどちょっと丸みのある文字で書かれていた。 たぶん男の人の文字だろう。 まだ幼いような、大人になり切れていない純真で真面目な印象の文字。 『この子』と猫を呼んでいることに好感がもてた。 これは持論だが、『猫好きに悪い人はいない』と思っている。 わたしはイタズラ心を出して、黒猫にココアのお気に入りのエサをあげた。 イタズラ心というよりは、人と接したいというさびしさからの行為であった。 不思議なことに黒猫は、わたしの思考を読んだように「にゃおん」と鳴き、掌のエサをだまって食べてくれた。 ココアも自分のエサを食べる黒猫をゆるしたのか、黙って見ていた。 イタズラついでに、リビングに置いてあったノートを破りその紙片に、 『エサあげちゃいました』 教科書のようなキレイな文字で、大人の女の人をよそおって書いた。 その紙片はギリギリ黒猫の首輪BOXに入ったので、我ながら満足した。 それを察してか、黒猫が優美な長い尻尾をくねらせ、「にゃおん」と鳴いた。
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