第3話「レンタル期限は明日まで」―1

1/21
29人が本棚に入れています
本棚に追加
/86ページ

第3話「レンタル期限は明日まで」―1

【ゴーストの章】 俺はその部屋に入った。 家具が極端に少ないのは、住人の好みだろうか。 無色透明な佇まいの部屋で、俺はちょっと気に入った。 唯一趣味といえるのが、液晶テレビとDVDプレイヤーだけだ。 この部屋の雰囲気に溶け込む頃には、俺はまた何処かに行っているだろう。 残暑で蒸し暑い部屋の窓を開け、俺は窓際に座った。 窓の側に揺れる梅の枝が、多少邪魔だが切るわけにもいかないだろう。 職業柄、あまり目立つ行為は厳禁だ。 改めて部屋を見直して、部屋の気配を吸い込む。 それは部屋の住人の気配と同色で、無色透明な空気を漂わせていた。 俺と似ている。 仕事を斡旋した【茶鼠(ちゃねず)】の話しでは、依頼人が俺の写真と経歴を気に入って仕事を依頼したという。 なんでも、部屋の住人と俺が酷似しているからだとか。 前の人間と似ているより、この仕事に求められるのは目立たないこと。 なにより無色透明な人間になり、第三者の記憶に残らないことだ。 それでいて存在だけを認識させることが重要だ。 その微妙な匙加減が、この仕事が俺の天職だと思える所だ。
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!