目線の先

6/10
前へ
/44ページ
次へ
「うわっ、ビビっ…た」 いきなり開かれた戸に驚きながら、その戸を開けた人物を見る。 目の前にいたのは、 俺が捜していた先輩…。 向こうも人がいた事に驚いたのか固まっており、見開かれた眼には何故か涙が溜まっていた。 「…あっ」 固まっていたのは数秒で、先輩は逃げようと廊下へと方向を瞬時に変える。 それを阻止するかのように、反射的に出た俺の手が先輩の腕を掴んでしまった。 「何?」 先輩が振り向き、嫌そうに掴まれた腕と俺を見る。 「す、すみません…」 と謝るが、腕は掴んだまま放さない。 ここで放してしまったら、もう会えない気がしたから。 「俺一年の野宮誠って言います。もし良かったら、泣いている理由教えてくれませんか…。きっと楽になりますし、赤の他人だから他の人には絶対言いませんし…。だから、あの…」 自分でも何を言えば、先輩を引き留められるか分からなかった。 とりあえず涙の理由が知りたくて、口から出てくる言葉任せに喋る。 先輩はと言うと、凄く不思議そうな目で俺を見ていた。 「やっぱ、初対面で失礼ですよね。すみませんでした」 何も言わない先輩に諦めを感じ、掴んでいた腕を放す。 「話…長くなるよ?」 「え?」 突然ポツリ言われた言葉にうまく反応出来ず、再度聞いてしまう。 「だから…時間がかかるけどいいの?って聞いてるんだけど…」 「全然いいです。俺何時間でも聞きますっ」 「時間掛かるって言っても何時間も掛からないって」 そう言ってクスリと先輩が笑った。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加