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「先輩…俺の前では、無理して笑わないくていいです」
その言葉を言った瞬間、先輩の動きが止まった。
「え…やだ、野宮君何言ってるの。私無理してなんか…」
「作り笑顔なんてしなくていいんです。ほら俺、今会ったばかりの…赤の他人ですから」
戸惑う先輩に対して、苦笑いで俺は言った。
先輩の笑顔が何故か泣き顔に見えるんだ。
すごく可愛い笑顔なのに、涙が見える。
それはきっと心自体が泣いているから…。
「ゴメ…。あり、がと…ぅっ」
堰を切ったかのように涙が先輩の目から溢れ出て、下を向いたまま声を殺して泣き始めた。
隣にいる俺はただ隣にいるだけしかできなくて、横で泣く先輩の頭を優しく撫でた。
そしたら泣き声の中から小さく『ありがとう』と聞こえた気がした。
それからしばらく経って真っ赤な目になった先輩が顔を上げ、黒板の横に掛けられている時計を見て呟いた。
「そろそろ授業終わるね…友達心配してるから行かなきゃ」
ポケットからケータイを取り出し、画面を開くと『ほら』っと苦笑しながらケータイの画面を俺の方に向けた。
画面には着信と未読メールの嵐。
俺も一緒に苦笑した。
「初対面の、しかも一年生になのに迷惑かけちゃってゴメンね。格好悪い先輩。でもお陰でスッキリしたよ、ありがと」
立ち上がってスカートについて埃を振り払う。
「この事は皆に内緒ね」
そう言って笑顔を見せる先輩は、本当にスッキリしたようで空元気とかには見えなかった。
「それじゃあバイバイ」
「ちょ、待ってください」
立ち去ろうとした先輩の腕を瞬時に掴み、まだ床に座っていた俺は立ち上がる。
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