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リョウが懺悔の間から出発した、丁度その時……下界では1人の仕分け人が河原で休息をとっていた。
長い黒髪を後ろで縛っているその仕分け人は、川のせせらぎに耳をすませ、にこやかに空を仰いでいる。
その薄茶色の目が、先程昇りだした太陽の光を浴びてキラキラ輝いていた。
「今日も良い天気だな」
独り言のように呟いたとき、膝の上で眠っていた黒猫がゆっくり目を開けた。
「おう。おはよ、ソラ。よく眠れた?」
「ソウマ、おはよう。……夢を見てたわ。天界にいたときの夢」
ソラは小さな前足で目をこすりながら答えた。その様子を見て、ソウマが申し訳なさそうにソラの頭を撫でる。
「そっか。やっぱ、天に帰りたいよな。ごめんな、俺のわがままのせいで下界に留まる羽目になって」
生前の記憶を取り戻した仕分け人は、天に還ることが許される。
しかし、ソウマは記憶を取り戻してもなお、仕分け人の継続を選んだ。当然、パートナーであるソラも下界に留まることとなる。
「別に。天界にいてもつまらないし。ソウマといた方が退屈しなくていいわ」
「ありがと、ソラ」
そう言って微笑むと、ソウマは再び雲が流れる青空に目を戻し、物思いに耽る。
「夢、か。もう何百年も見てないなぁ」
夢。それは……もう二度と行けない場所や、この世に存在しない人に会える唯一の希望でもある。
夢を見ることによって、人は心の中にある大切な思い出を映像化させることができるから。
しかし、眠ることの出来ない仕分け人には、その希望すらもない。
「さて、そろそろ行動開始しますか!」
そう言って立ち上がると……河原沿いの道の向こうから、こちらに歩いてくる人影が見えた。
大きな鎌を持ち、黒い布を巻いているところを見ると、その人影が仕分け人であることは一目瞭然。
どうやら、女性のようだ。精一杯目を凝らすと、肩までかかっている三つ編みが見えた。
「……あれ? もしかして、マキか? マキー!」
ソウマが手を振り、笑顔で呼びかける。その声に、マキがゆっくり顔を上げ、小さく手を振り返して微笑んだ。
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