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バスを降りた途端、頭上からの強い日差しに目が眩んだ。
乾いた高原の風が吹き、途端に視界が黄色く霞む。舞い上がった土ぼこりを吸い込まないよう、私は首に巻いていたストールで口元を覆った。
成田から成都まで直行便でおよそ六時間。
そこから更に国内線とバスを乗り継ぎようやくこの地に降り立った。
四川省カンゼ・チベット自治区理塘(リトウ)県。
半年前から連絡が途絶えた婚約者の狩野 賢治を追って私はこんなに遠い所までやって来た。
フリーのルポライターである賢治は、取材で訪れた拉薩(ラサ)で目撃されたのを最後に消息を絶った。
契約していた通信社の現地支社の人も手を尽くしてくれたのだが、賢治の足取りは一向に掴めなかった。
それが行方不明から半年経って、ようやく賢治が最後に宿泊したとみられる宿が判明した。
拉薩から遠く離れたこの土地で、彼は一体何をしようとしていたのだろうか。
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