24人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
◇一年目◇
先月、恐ろしく固いチョコを食わされた。
岩かと思うほど固かった。
お菓子を作るのに興味がないことは知っているが
レシピくらい調べてもよさそうなのに、と思った。
きっとあいつのことだ
なんとなく市販のチョコを溶かして、型に流し込み、
冷蔵庫でガッチリ冷やし固めたのだろう。
そういう適当なところ、俺は嫌いじゃない。
全部が適当なら少し考えもするが
ここぞ、というときに発揮される適当さが
笑えて仕方ないのだ。
ひと月以上も前から
どこの店にもバレンタイン特設コーナーがあって
材料も、ラッピングも揃うし
完成品だって多種多様に溢れている。
なのに、そんなものに目もくれず
当日ギリギリになって慌てて準備するから
適当なのだ。
旅行に出掛ける時も、荷造りは前日。
俺の必需品はしっかり揃えるくせに
自分の下着だけ入れ忘れたりする。
友人の結婚式に出るときに至っては
祝儀の準備が当日。
一枚しかない祝儀袋に
練習もせずにいきなり字を書く。
筆ペンのインクが無かったらどうする気だと
内心ヒヤヒヤしながら見ていたら
インクの心配はなかったものの
何故だか自分の名前を書き間違える。
俺の想像の範疇を越える失態を
大事なときにやらかして慌てる
そんなあいつがたまらなく面白い。
最初のコメントを投稿しよう!