ホワイトデー行進曲

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高いチョコを送られたことだし 高いもの返してやろう。 さすがに、抱えて帰るのは照れ臭いので あいつ宛に花束を届けてもらうことにした。 ガッツリ、恥ずかしいくらいにバラの花束。 そうすると、手渡すものがなくなってしまう。 けれど、「残念」から「歓喜」に変わるのもいいだろう。 楽しいかもしれない。 「おい」 呼び掛けて にへらと笑って振り向くあいつに 「ごめん、ホワイトデー忘れてた」 そう言うと ひきつり笑顔で 「あ、うん、仕方ないね」 と返してきた。 全くなんだろう、この健気さ。 夕食を終えて 玄関のチャイムが鳴って いそいそとはんこを持ってリビングを出たあいつが 今にも泣きそうな顔で 真っ赤なバラの花束を抱えて戻って来たのを見て やっぱりこの百面相がたまらん、とほくそ笑んだ。 飾りきれない花束の一部を風呂に浮かべて 身体中に花びらをくっつけたまま 「贅沢だ」と喜ぶ顔が 俺に満足をもたらす。 ……ありがとう、と抱きついてきたあいつから バラの香りが微かに漂って バラ風呂を口実に 一緒に風呂に入ることも出来て 今年はなかなかにいい案だったと 自分の策に拍手したくなった。 ただ バラの花びらの後処理に四苦八苦する羽目になったのが 俺の詰めの甘いところかも知れない。
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