「脅威」

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黎子が路地へ駆け出す。 そこには上半身と下半身が分かれ、絶命している怪物が倒れていた。 「これって」 「あぁ、こいつが俺等を襲った。途方もない怪力ぶりだったよ。にしても、怪物が倒されているということは…」 秀悟は周囲を見渡す。すると春菜が電柱の近くで叫ぶ。 「み、みんな…いたよ。黎子のお父さん…」 一同が駆け寄る。 「ふ、怪物は…仕留めてやったぞ…」 黎子の父親は息を切らしながらも、傷を負っていたが生きていた。 「父…さん?」 再会した黎子が一瞬笑顔を見せる。しかし、一瞬で泣き出しそうな顔になった。 「黎子…泣くな。俺の娘だろ…」 黎子の父は左腕が肩から先がなくなっており出血が続いていた。 「…そんなこと…できるわけないだろ」 そんな姿を見て黎子が泣き崩れる。 「怪物に左腕を持ってかれた…血も止まらない…俺はもうダメだろう」 瀕死だというのに余裕そうな顔を見せる黎子の父。 「まだ、なんとかなりますよ!」 春菜が鞄から救急セットを取り出そうとするが。 「いや…いい。左腕を失ったんじゃ足手まといだ」 「けど…」 「…そのままでいいんだ」 華江に支えられ黎子が呟く。 「どうして!?黎子のお父さん…」 春菜が反論する。 「これが父さんの覚悟なら受け止めなきゃ…」 涙をぐっと堪える黎子。 「それでいい…ありがとうな。俺はいい…娘をもった」 「父さん…」 「最後に、いくつか伝えたい…赤城、それと社長…みんなを…頼む」 「…もちろんです」 秀悟が頷く。 「家は自由に使ってくれ…残っている刀なども戦力に充ててくれ…それと黎子…」 「…はいっ!!」 「舞子と沙苗に逢ったら…すまなかった。と伝えてくれ…」 「分かった。姉さんと母さんに伝える!」 「…ありがとう。これで俺も悔いはない」 普段は厳格な父が一瞬ながら笑顔を見せた。 「…みなさん!」 華江が叫ぶ。 「華江どうした?」 秀悟が尋ねる。 「塞がれていない道路の方から…大量のゾンビが!」 華江が指差す先には、まだ遠くにいるが相当な数のゾンビがこちらへ向かってきていた。 「…くそ。またやつらか」 サーベルを構えようとすると黎子の父が止める。 「俺が…やる」 瀕死だが、おぞましい気力で立ち上がる。
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