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朔弥さんに差し出された資料にはターゲットとなる人物の詳細が不明瞭ながらも記載されていた。棺が空になったカップに紅茶を注いでくれた棺にお礼を言いながら目を通す。
「これは個人的なお願いだが詳細については家で確認して欲しい。学校の事、宿泊費や旅費は私に任せてくれ。それと必要経費と依頼料は先に渡しておく。それともうひとつ今回は相手が相手、手練れの協力者も用意した」
それは頼もしい。書類とかなり膨らんだ封筒を手渡されながらそう思った。
「といっても君の良く知る人物だがね」
意味あり気に笑う朔弥さんが結局協力者の名を明かすことはなく、僕は九条院家を後にした。
家に向かう途中、夕飯の買い出しをしながら先程の手配書の写真を思い出す。
一見冴えないサラリーマンという印象だったのだが人知れず魔術を使っては夜な夜な人を攫い魔術による人体実験を繰り返す犯罪者、らしい。
名前は佐々木 拓道(たくどう)とある。なんというか画像が荒く写真と名前以外は関連しているであろう事件の詳細が書いてある。
「お帰り兄ちゃん」
僕は家に着くなり駆け寄って来た杭の頭を撫でて二階に上がった。
もう一人の当事者であるスカーレットにも話をしておかなければ。
「ぱないの!」
「あっはは!めっちゃ似てるー。ねぇねぇ、スカーレットはちっちゃくなったり出来ないの?」
「んむー、それは難しいの。まあ変幻出来る輩がいたとしても幼児化をするメリットはないと思うが」
自室のドアを開けるなりいきなりこれだ。全くこの吸血鬼ときたら呑気なものである。
いっそ今現在2人が見ている某物語の吸血鬼と交換して欲しい位だ。
そしたらめっちゃくちゃ愛でるのに。
「お、なんじゃシロ。帰って来ておったのか」
「あっ。夕飯の買い出しありがとねお兄ちゃん。ご飯準備出来たら呼ぶからー」
買い物袋を手渡すと我が家の料理担当がキッチンへと向かって階段を降りていった。
「ほぅ。仕事か…あの娘御の父も容赦ないのう。それより理解しておるかシロ。魔術協会とやらはお主に人を殺せと言ってきておるのじゃぞ?」
それは、分かっている。確かに死穢といっても相手は『まだ』人間。正直迷いはある。けれども本当に身勝手な理由で死を振りまいているのなら。
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