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周囲を見渡すがあたり一面黒一色。
最早目が閉じているかいないか分からない。いつしか落下は止まり、代わりに妙な浮遊感が体を支配した。
闇に支配された世界に放り込まれた僕は頭に血が昇っていたせいか不思議と恐怖を感じなかった。それより五感が機能せず時間の流れを感じる事が出来ない事の方が問題だ。
手や足の感覚もなく何も出来ないまま時が流れる。
そんな世界に閉じ込められたおかげ今さっき自分のした行いについて嫌でも考えさせられた。
当初この事件について何も知らなかった僕が、犠牲者達の凄惨な末路を見でしまった事で依頼に個人的な感情を挟んでしまったのは事実。けれど結局のところ最初から佐々木を殺す事が目的だったのだから僕のした事は咎められる程の事だったのだろうか?手段はどうあれ結果は変わらなかった筈………
いや。
それでは結果は変わらなくとも自分の欲望のままに人を手に掛ける佐々木と同類になってしまう。
もしもスカーレットが佐々木を私怨で殺す事を止めてくれなかったら僕は……
そんな事を考えていると黒で染まった世界に微かな光が差した。まるでシャボン玉のような球体の光。
よくよく見ると主観の映像の様だ。
西洋の甲冑を身に纏った人間達が刃を交えている光景から察するに戦場らしい。視点の人物を守るよう兵が展開していく、直ぐ側にいた兵がこの映像を見ている主の名を呼んだ。
『S'il vous plait un vetement de seconde main donne!……Jeanne!?』
これはスカーレットの記憶なのか?それも転生前の………だとしたら。
映像を映していた光の玉が僕に触れ弾けた。
フラッシュバック、それか追体験と言うのかともかく表現し難い不思議な体験。
出生から死没までの経過を走馬灯のように一瞬で見せられた。
一言で表すならそれは劇的な人生。
それもその筈。多分というか間違いなくこの記憶の持ち主はジャンヌ、ジャンヌダルクその人。
僕が知るジャンヌダルクについての情報と言えば百年戦争の勝利に貢献した救世の聖女、ぐらいのものだったのだが。やはりそれは後世に伝えられた史実。
それなりに脚色されているのは当然だ。
だが本人の目を通して人生の一端をこうもまざまざと見せられては認識を改めざるを得ない。
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