こうなることは予期していた。

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そこに広がっていたものは、鈴木の想いだった。彼の気持ちが俺の中に入ってくる。これも能力によるものだろう。 「鈴木!あいつはもうだめだよ。もう変わったんだよ、俺らの知ってるあいつは消えたんだ。優勝してからな。」 斎藤が鈴木に言った。鈴木は顔を下向きにしているため斎藤からは何を考えているかわからない。俺は第三者として宙に漂っているため鈴木の顔を見ることができる。悔しさのせいか、彼は顔をしかめている。俺のためになぜそこまでするのだろう?俺にはわからない。 「星はそんなやつじゃない!何かはわからないけど苦しんでるんだ!!顔を見ればわかる。斎藤だってわかるだろ?」 鈴木は自分だけでは整理できない気持ちを斎藤にぶつけている。しかし 「わかんねぇーよ!なんで星があんなことになったかなんて知るかよ!でもあいつは言ったんだぜ?努力ってのは才能あるやつがするから意味があるってね。そんなこと言われなくてもさ、、わかってるんだよ。でもさ、頑張らないと差なんて埋まらないだろ?」 斎藤の声が徐々に震えてくる。今にも彼は泣き出しそうだ。 「星の本心のはずがない!!」 鈴木は即座に言った。俺はそれが嬉しかった。でも俺の言ったことが真実ではなくても他の人からしたら真に受けてしまうだろう。常日頃からこの二人にはお世話になっていたし、才能を羨ましがっていた。俺のことを本当に慕ってくれていた。そんなやつに馬鹿にされたら俺だって悔しい。なんで俺は予想していなかったんだろう? 「本心じゃなくても、これは本当のことかもしれない。努力なんて報われる奴なんてホントに一握りしかいない。その中に俺は含まれてないんだ!」 斎藤は泣きながら話している。悔しいのだろう。俺のことを憎んでいるに違いない。 「斎藤、俺は好きだ!陸上が好きだ!走れるだけで満足はしないつもりだけど、、、それでもいいと思ってる。一握りじゃなくてもいい。だけど、星が言ったことは間違ってる!俺の親友の星がこんなこと言わない。今の星は違う奴だ!絶対に言ったことを訂正させる。」 鈴木は本気だった。だから俺にあれだけしつこくしていたのだ。涙が落ちる。嬉しくて、悲しくて、自分のバカさに気づく。俺はこれだけ鈴木に信用されていたのか。涙が止まらなかった。
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