Episode01 アイツの時間 私の時間

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「誠記さん、お久しぶりです。  大田先生がそう言ってくださってたんですね」 「奏音ちゃん、今どこ?」 「私は今、ミュージカルの演奏についてまわってて今日は福岡なんです」 「ミュージカル……そう。シェークスピアの真夏の夜の夢の公演が今だったかな?」 「はいっ。  誠記さんが紹介してくれた時から、ずっとこちらの先生にはお世話になってるんです」 「こっちにはいつ帰ってくるのかな?」 「一応、1週間後には帰れる予定です」 「1週間後だね、了解。  その時予定入れといて。大田先生にも伝えておくから」 「はいっ。……あの……誠記さん……今、史也君ってどうしてるんですか?」 思い切って会話を切り出してみる。 10年間、一度も……史也君の話題を出したことはない。 だけど……忘れたわけじゃない。 今もずっと……気になってる。 だけどその気になってる思いが『恋』じゃないのも、 今は気が付くことが出来た。 「あっ、史也も気にしてた。   二人とも気になってるんだったら、連絡くらい取り合えばいいだろう?  俺を間に挟まなくても。  秋弦なんて今も、アイツのマンションしょっちゅう押しかけてるみたいだぞ」 誠記さんはそう言いながら笑った。 秋弦が史也君のマンションに……。 それを聞くと、やっぱりなんか悔しい。 「あっ、アイツ今……医者になったよ。  若杉って覚えてる?  アイツと一緒に鷹宮総合病院ってところで働いてるよ。  アイツのマンションに行きづらかったり、電話やりづらいなら  鷹宮総合病院に行ってみたらどうかな?  その病院には教会とパイプオルガンがある。  今はエレクトーンじゃなくて時折、史也がパイプオルガンを奏でてるよ」 史也君がパイプオルガン? エレクトーンじゃなくても、楽器を続けてくれてるのに それだけで凄く心が温かく感じる。 「誠記さん、有難うございます。  私、そっちに戻ったら訪ねてみます。  鷹宮総合病院。  1週間後、大田音楽教室でお会いできるの楽しみにしています」 「あぁ、俺も楽しみにしてる」 その後の1週間も必死に、ステージを務める。 生演奏で、役者さんたちのタイミングを感じながら呼吸をあわせて 演奏していくのは難しくて、なかなか自分自身で90点以上の得点は 採点することなんて出来なかったけど、その時間は私を確実に前に進ませてくれる。
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