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「誠記さん、お久しぶりです。
大田先生がそう言ってくださってたんですね」
「奏音ちゃん、今どこ?」
「私は今、ミュージカルの演奏についてまわってて今日は福岡なんです」
「ミュージカル……そう。シェークスピアの真夏の夜の夢の公演が今だったかな?」
「はいっ。
誠記さんが紹介してくれた時から、ずっとこちらの先生にはお世話になってるんです」
「こっちにはいつ帰ってくるのかな?」
「一応、1週間後には帰れる予定です」
「1週間後だね、了解。
その時予定入れといて。大田先生にも伝えておくから」
「はいっ。……あの……誠記さん……今、史也君ってどうしてるんですか?」
思い切って会話を切り出してみる。
10年間、一度も……史也君の話題を出したことはない。
だけど……忘れたわけじゃない。
今もずっと……気になってる。
だけどその気になってる思いが『恋』じゃないのも、
今は気が付くことが出来た。
「あっ、史也も気にしてた。
二人とも気になってるんだったら、連絡くらい取り合えばいいだろう?
俺を間に挟まなくても。
秋弦なんて今も、アイツのマンションしょっちゅう押しかけてるみたいだぞ」
誠記さんはそう言いながら笑った。
秋弦が史也君のマンションに……。
それを聞くと、やっぱりなんか悔しい。
「あっ、アイツ今……医者になったよ。
若杉って覚えてる?
アイツと一緒に鷹宮総合病院ってところで働いてるよ。
アイツのマンションに行きづらかったり、電話やりづらいなら
鷹宮総合病院に行ってみたらどうかな?
その病院には教会とパイプオルガンがある。
今はエレクトーンじゃなくて時折、史也がパイプオルガンを奏でてるよ」
史也君がパイプオルガン?
エレクトーンじゃなくても、楽器を続けてくれてるのに
それだけで凄く心が温かく感じる。
「誠記さん、有難うございます。
私、そっちに戻ったら訪ねてみます。
鷹宮総合病院。
1週間後、大田音楽教室でお会いできるの楽しみにしています」
「あぁ、俺も楽しみにしてる」
その後の1週間も必死に、ステージを務める。
生演奏で、役者さんたちのタイミングを感じながら呼吸をあわせて
演奏していくのは難しくて、なかなか自分自身で90点以上の得点は
採点することなんて出来なかったけど、その時間は私を確実に前に進ませてくれる。
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