353人が本棚に入れています
本棚に追加
「雪ん子ちゃん」
靴箱の方向から聞こえてきた明るい声にどきりとした。
中々振り向けずにいれば、おかしそうな口調で再度私の名前を呼んで視界に入り込む。
普段と変わらない笑顔を浮かべた森くんがいた。
「一緒に帰らない?」
思わず口を半開きにして森くんの目をじっと見つめてしまう。
「嫌?」
反射的に首を振った。
「……帰る」
「よかった」
ほっとしたように微笑んでから彼は私の背後へ視線を向けた。
「話したいことあるから二人で帰りたいんだ。悪いんだけど……」
別にいいけど、と美香ちゃんがあっさりと答えた。
「その代わり、これで貸し二ね」
「これくらいで貸しって厳しすぎない?」
苦笑いを浮かべたその表情がふいに真剣なものになった。
数秒、私の背後を見つめてから視線を戻す。
「……じゃあ、行こうか」
「うん……二人とも、また明日……」
振り返って心臓が高い音を立てた。すぐそこに先生が立っていた。
「……さ、さようなら」
思いの外小さく出た声に合わせて会釈する。
先生は何も言わずに通り過ぎていった。
最初のコメントを投稿しよう!