8/40
前へ
/427ページ
次へ
「雪ん子ちゃん」 靴箱の方向から聞こえてきた明るい声にどきりとした。 中々振り向けずにいれば、おかしそうな口調で再度私の名前を呼んで視界に入り込む。 普段と変わらない笑顔を浮かべた森くんがいた。 「一緒に帰らない?」 思わず口を半開きにして森くんの目をじっと見つめてしまう。 「嫌?」 反射的に首を振った。 「……帰る」 「よかった」 ほっとしたように微笑んでから彼は私の背後へ視線を向けた。 「話したいことあるから二人で帰りたいんだ。悪いんだけど……」 別にいいけど、と美香ちゃんがあっさりと答えた。 「その代わり、これで貸し二ね」 「これくらいで貸しって厳しすぎない?」 苦笑いを浮かべたその表情がふいに真剣なものになった。 数秒、私の背後を見つめてから視線を戻す。 「……じゃあ、行こうか」 「うん……二人とも、また明日……」 振り返って心臓が高い音を立てた。すぐそこに先生が立っていた。 「……さ、さようなら」 思いの外小さく出た声に合わせて会釈する。 先生は何も言わずに通り過ぎていった。
/427ページ

最初のコメントを投稿しよう!

353人が本棚に入れています
本棚に追加