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「ね。変わらないよ、俺たち」
反射的に顔を上げると彼は湿った砂をさくりと掬い上げて、ぱらぱらと落とした。
「もう友達には戻れないとか考えてたでしょ。フラれたのはたしかにショックだけどさ、この先話せなくなることの方がずっとずっと辛いよ。決着はついた。試合は終了。だから俺たちは友達に戻る……ううん、そもそも何も変わってないんだよ」
そこで森くんは驚いたように目を見開いた。
その姿が見る間に滲み出し、はっとして俯く。目頭と鼻がツンと熱い。
「……そんな泣きそうな顔しないでよ」
「だって、ひどいことしたのに……」
「雪ん子ちゃんは自分が間違ったことをしたと思ってるの?」
違うよね、と彼はハッキリと言った。
「俺を傷つけたと思ってるみたいだけど、それは違う。雪ん子ちゃんは自分の気持ちに正直になっただけで間違ってない。傷つくのは俺の勝手。雪ん子ちゃんが責任を感じる必要は一切ない」
静かに顔を上げる。
真っ直ぐにこちらを見据えていた目元がふっと緩んだ。
「正直さ、当たって砕けろみたいなとこもあったんだ。どこかで応えはわかってた。俺……焦ってたんだよね。それでも、気持ちを伝えてよかったと思ってる」
砂まみれの手を波で洗う。
焼けるような茜色の空に照らされたその横顔は清々しそうで、けれど私の瞳にはどこか寂しげにも映った。
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