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「戻れないと思った」 彼の優しさについ本音がこぼれる。 こちらに振り向こうとした森くんは、しかし思い直したように遠くの空に視線を戻した。 「お喋りしたり、ご飯食べたり、一緒に塾行ったり……もうできないと、」 「そんなわけないじゃん」 沈んだ空気を追い払うような笑い声だった。 「友情までなくなっちゃったら悲しくて生きていけないよ。だからそんな顔しないで。いつもみたいに笑って。そんなんじゃ俺が浮かばれない」 にっこりと笑って私の腕を肘で突く。 笑顔を引き出そうとしてくれているのに私は上手く応えることができなかった。 悔いがなくても辛くないはずがない。私だったらこんな風に笑うことなどできない。 事実、先生に突き放されるたび私は涙を流しては視線が合うのを恐れ逃げてばかりいた。 それに比べて自分よりも私のことを気にかけてくれる森くんはなんて優しいのだろう。その暖かさに再び視界がぼやけかけたとき、 「それで? どこがいいの、氷泉の」 唐突な質問に私は面白いくらい動揺して喉の奥から変な声が出た。 「さ、さあ……」 「答えになってない」 「だって」 「人気者のこの俺を乗り越えるなんて納得いかない。後学のために教えて」 おどけたように笑う森くんに胸が軋んだ。 きっと私を諦めるためにすべてを受け止めて目いっぱい傷つくのだろう。 「私……森くんのこと本当に大切な友達と思ってる」 森くんは優しい笑みを浮かべて立ち上がった。 両腕を上げて気持ちよさそうに伸びをしてから水平線を瞳に映す。 「そういえばさ、よかったよ、チャーリーのライブ」 「一人で行ったの?」 ちょっと驚いて訊ねると、 「さすがにペアシートに一人で行く勇気はないよ。みかんと一緒に行った」 「美香ちゃん?」 びっくりして目を丸くしたら、森くんはおかしそうに笑った。
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