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「雪ん子ちゃんと別れて少し経ってから電話あってさ。あたしもライブ行きたいんだけど当日券ってあるのかって。……ヘタな嘘つくよなあ。俺が一人になるかもしれないと心配してわざわざ近くまで来てたんだよ」
屋上での強い眼差しを思い出す。
美香ちゃんは既に答えを見抜いていたのだ。
雪ん子ちゃん、と森くんが静かに呼んだ。
「これからも、よろしく」
そう言って右手を差し出す。
私は立ち上がってから、その手をしっかりと握った。
「……ありがとう」
短い握手のあと森くんは照れたように鼻先を掻いた。
車道へ向かう私たちの足元には背後からの夕陽を受けて二つの細長い影が伸びている。
先を歩くその影を追うように足を進めていると突然隣の影が止まった。
「そうだ、言い忘れたことがあった」
「言い忘れたこと?」
森くんはニヤリと微笑んでから顔を寄せたかと思うと内緒話でもするように小声で、
「俺、諦めるとは言ってないからね」
冗談なのか本気なのかわからない台詞に言葉を失った私を見て、彼は勢いよく吹き出した。
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