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校門を抜けた私は不自然ではない程度に歩調を緩めて校舎を見上げた。 化学準備室の窓は換気のために今日も開け放たれている。 白いカーテンが風に煽られてひらりとはためく。 そこに先生がいるのか、地上からはわからない。 週の半ばに入ったものの先生と私の間に接点という接点はなかった。 体育祭に向けた準備や練習で昼休みや放課後が潰れてしまうのは仕方のないことなので諦めがつく。 ただ今日までにメールすらないのは首を傾げるものがあった。 月曜日の放課後、昇降口で出くわした。 さようならと挨拶をする生徒に先生は気をつけて帰れと返していた。 けれど私には何も言ってくれなかった。 些細なことだかそれは小さな棘となり胸の奥に刺さっていた。 通学鞄の中から携帯を取り出す。 お揃いの御守りがゆらりと弧を描く。 私のことを好きといったあの言葉は本心だったのだろうか。 無言の携帯を眺めているうちにそんな疑念がわき上がってきて急に不安になる。 いや、と断ち切るように歩調を速めた。 そんなことを軽々しく口にする人ではない。 教師と生徒、それ以上の関係性であることは決して周りに悟られてはならない。 それならばなるべく近づかない方が賢明なのかもしれない。 あのとき何も言わなかったのはそのせいなのかな。 気づかないフリをしたのかも、と考えると心が少し晴れるのを感じた。 同時に、人知れず私たちを繋ぐのはこの携帯だけ、とも考えられるわけでーー。 駐輪場まで移動して先生のアドレスを表示させる。 登録名は念のため『イセさん』となっている。 メールの作成画面を開いて文章を組み立てた私は勢いに任せて送信ボタンを押した。 なんて返ってくるかな。 今しがた送ったメールを読み返しつつ緊張して返事を待っていると、 「何て送ったの?」 「名前、ちゃんと登録してくださいねって、」 はっと振り向く。 頬にぺっこりとえくぼを作った彩ちゃんが私の肩に顎を載せて携帯を覗き込んでいた。
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