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「すっかり見慣れた光景ね」 私の襟元にある貸出用のリボンを意味ありげに見て、美香ちゃんがおにぎりを頬張った。その口元が緩んでるように映るのは気のせいだろうか。 「もう何回目よ」 「たしか……五、六回目?」 「魔の呼び出しまであと四、五回ってこと? でもそれって正確?」 「え?」 「本当は今日で記念すべき十回目だったりして」 強面で大柄の菅田先生による説教を受けた生徒は二度と生活指導室の敷居を跨ぐことはないーーそんな噂がある。 それは彼によるお灸がどれほどの恐怖を植えつけるかを物語っている。 「ま、まさか」 「どうだか。心の準備しといた方がいいわね」 「大丈夫だよ、今日みずがめ座一位だったんだから!」 「本当に一位ならリボン忘れないと思うけど」 切れ味の鋭い返しに言い返さずにいたら、 「やったあ!」 先ほどから携帯を睨んでいた千秋ちゃんが突然立ち上がった。 驚いてサンドウィッチに指がめり込んでしまった私の隣で、残り一口のおにぎりを口元から離した美香ちゃんが迷惑そうな顔で尋ねる。 「何よ、いきなり」 「今週も伊東くんとデートできることになったのお」 デートという単語にぴくりと耳が大きくなる。 奇遇だな、と返したのは既に昼食を終えた三浦くんだ。 「俺も振り替え休日に出かけることになったんだよ」 「そうなんだ。どこに行くの?」 「上野動物園。彩が行きたいっていうから」 「動物園は最近行ったばかりだしなぁ。千秋たちどこに行こー」 行先を考え巡らす彼女から、誰もいない教壇へと視線を移した。 私も先生と出かけたりしたい。けれどそんな望みが難しいことはわかっている。ならばせめて先生の家で一緒に過ごしたい。 サンドウィッチを持つ手を止めていたらスカートの中で携帯が振動した。
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