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そういえば伯母さんのメールに返信するのを忘れていた。
慌てて携帯を開いて――一瞬、息が止まった。
皆に背を向け、かすかに震える手でメールを開く。
『放課後、少し時間とれる?』
どきっと心臓が大きく打った。
逸る気持ちを抑えつつ『大丈夫です』とだけ返信する。
挨拶も飾り気もない、要件だけのメール。
このちょっとそっけない感じ、先生らしいな。
今朝のことも忘れて頬を緩ませていれば三十秒と経たずにメールが返ってきた。
『じゃあ放課後に。教室で待ってて。迎えにいくから』
先生が迎えにくる――。
リボンは忘れちゃったけど、やっぱり今日はいい日だ。星座占いは当たった。
ふいに三浦くんが尋ねた。
「何ニヤけてんだよ。さては男だな」
「伯母さんだよっ」
「雪乃彼氏できたの? 聞いてないんですけどー」
「だ、だから違うって」
「あはは、慌ててる。冗談よー」
私は危機感を抱いていた。
三浦くんと美香ちゃんの二人は何故か私に恋人がいると疑ってかかっているようなのだ。
前触れなくこんな誘導尋問まがいのことをしてきては否定する私を面白がって笑う。
いちご牛乳を飲んでいる森くんをちらりと見る。
――ううん、それはない。先生との関係については一切話していない。
先生のこととなると表情に出てしまうから怪しまれるのだろう。
今一度気を引き締めて私は卵のサンドウィッチを頬張った。
まだかな。
黒板の上の掛時計を眺めてから扉へ振り向いた。
HRを終えた放課後、私は自分の机で勉強をしながら先生の迎えを待っていた。
正確な時間を知らされていないのもあって、もうずっとそわそわと落ち着かない。
手鏡を取り出して前髪を整える。
待ち望んだ声がかかったのはそんなときだった。
「西島」
後方の扉に白衣姿の先生が立っていた。
真っ直ぐな瞳にどきっとする。
「ちょっと来て」
「は、はいっ」
自分のところまで駆け寄るのを待ってから彼は歩き始めた。
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