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マンション前に停められているトラックから荷物を降ろす体格のいい男性の横を走り抜けると、十メートルほど先に先生を見つけた。 私に気づいた途端、こーら、と声を張り上げる。 「走ると転ぶぞ」 「は、はいっ」 歩調を落として小走りで近づく。彼は苦笑いを浮かべている。 「遅れてごめんなさい」 「俺も今さっき来たばかりだから」 そう言って私の背後に視線を投げ、 「引っ越し?」 「そうなんです。二つ隣の部屋に……さっき挨拶したんですけど、花音ちゃんっていう女の子がすごく可愛くて……」 突然、影が差した。 すぐそこに先生の顔が迫っていた。 つい固ってしまった私を間近で見つめたかと思えば「ふうん」と呟いて身体を起こす。 含みのある笑みに私はどぎまぎしながら髪を耳にかけた。 「な、なんですか」 「別に?」 「別にって……そんな言い方されたら気になる……」 「さ、行こ」 まるで何事もなかったようにさらりと交わして潮風のする方へ踏み出した。 バンドカラーの白いシャツにネイビーのボトム。シンプルな装いは学校での印象とさほど変わりはない。 ただし目元には変装用の伊達眼鏡がかけられていて、その姿は二度目といえ目を奪われてしまう。 普段とは違う雰囲気に思わず見惚れてしまっていると、 「何」 「い、いえっ」 慌てて前を向く。 隣でふっと小さな笑い声が響いた。 平日の昼間だけあってバスの車内は空いていた。私たちを含め五人の乗客しかいない。 海岸沿いを走るバスの一番後ろのロングシートの窓際に私と先生はスペースを空けることなく座っている。 少しでも動けば先生に触れてしまいそうな距離感にそわそわしっぱなしだ。 「先生」 「ん」 「その、今日ってもしかして……デート?」 窺うように見上げながら思いきって尋ねる。 期待を胸に返事を待ち詫びる私を見て、先生は顔色一つ変えず言った。 「ううん、社会科見学。クラスの連中も呼んでる」 「う、嘘っ」 「嘘」 「先生っ」 簡単に引っかかってしまった自分に顔を赤くさせながら声を尖らせば、先生は予期していたかのように小さく吹き出した。
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