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「西島……いつもと様子違うね」
「え……、そ、そうですか……」
「うん。そわそわしてる」
そう話す口調はどこか楽しげだ。
先生はこちらへ軽く身を乗り出すと、囁くように言った。
「もしかして……緊張してる?」
「普段、こんな大人っぽいお店入らないから……」
「それだけ?」
ずばり言い当てられ、じわじわと頬が熱をもっていく。
先生はふっと短く笑うと、余裕のある動きでお水の入ったワイングラスを手にした。
顔色をごまかすように小さくちぎったパンを頬張りながら、なんて意地悪なんだ、と内心で呟く。
好きな人と一緒にいて、それも想いが通じ合って初めてのデートで緊張しないわけがない。それを見抜いてからかって気分をよくしているなんて。
それに加えて――
ちらりと盗み見た先生は、普段と少しも変わりのない涼しげな顔を浮かべて眼下の海を眺めている。
――向かい合って顔を合わせるだけで恥ずかしくなってしまう私とは対照的にまったく余裕な姿が悔しい。
私だけあわあわしている。
「食べないの」
「え?」
「パスタ。美味いよ」
「あ……いただきますっ」
まだ手をつけていないパスタにフォークを入れる。
海老やあさりなど魚介をふんだんに使用したパスタは先生と同じペスカトーレだ。
「――美味しい!先生、すっごく美味しいです!」
感嘆の声を上げる私を待ち構えていたように先生は口を開いた。
「西島って本当に美味そうに食べるよな」
「そ、そうですか?」
「嵐山で一緒に食べたときもそうだった。幸せそうに食べてた」
懐かしむような優しい目元に、一年半前の先生の姿が思い起こされる。
――あのときもそうだった。
温かいうどんに舌鼓を打つ私を見て、先生はどこか楽しそうに口端を上げていた。
「そういえば……あのときはうどんでしたね」
「薄味だったけど美味しかったな」
「先生、黙々と食べてましたよね」
「西島だってそうだろ」
二人の笑い声が重なる。
それも束の間ふいに先生の顔が曇った。
フォークを持つ手を止め、真っ白なテーブルクロスに目を落とす。
「ごめん」
突然の謝罪に手が止まった。
「一年近くも西島のこと騙して……」
「先生……」
悔やむような表情に胸がぎしりと軋む。
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