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一瞬ではない時間が過ぎて、遮られた視界がゆっくりと開けていく。
赤面した顔を両手で覆う島崎先生と、目をまん丸にさせた近藤先生、興奮した様子で喚声を上げる安藤先生が順に映った。
「……これでわかってくれた?」
呆気にとられていた彼女は思い出したように瞬きを繰り返した。
「ほ、本当に……つき合ってるの……?」
「そういう関係だって、いつだったか言ったはずだよ」
言いつつ私の左ポケットへ手を入れる。
私のものではない携帯には葵くんの携帯についているものと色違いの海月のストラップがゆらゆらと揺れていた。
「僕のとお揃い。雪乃先輩と水族館に行ったときに買ったんだ」
それは決定打だったのだろう、彼女は黙り込んだ。
一仕事終えたような清々しい顔をして葵くんが私へ携帯を返す。
拍子抜けしたような空気が漂うなか近藤先生の深呼吸が響いた。
「それでは、氷泉先生と西島さんは本当に何もないのね……。もう、氷泉先生ったら一色くんが一緒にいたこと話してくれれば良かったのに」
「…………」
「氷泉先生?」
あ、と一拍遅れて氷泉先生は姿勢を正した。いや、えっと、と言葉を探して、
「すみません、生徒にもプライバシーがあるものと考えて……」
「生徒思いなのは結構ですけどこういう場合は話してくれないと堂々巡りになるだけですし、疑われても仕方ないですよ」
「よかったですね、誤解がとけて」
先生が何か言葉を返すより早く葵くんが微笑みかける。
「大体、氷泉先生には特別な女性がいますもんね」
「――ああ!」
いきなり島崎先生が叫んだ。
震える手で氷泉先生を指差して、
「氷泉先生……あの女性の方と……唐沢さんという方とやっぱりおつき合いしていたんですね!」
「やっぱりって……島崎先生、何か知ってらっしゃるの?」
「近藤先生も一度会ってますよ。ほら、文化祭で氷泉先生のことを探していた人です。冬馬って親しげに下の名で呼んで……。モデルさんみたいねって近藤先生もおっしゃってたじゃないですか」
「ーーああ!」
合点がいったように近藤先生が手を叩いた。
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