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「どれから話したらいいかな」
正面のソファで葵くんが愉快げに肩を持ち上げた。
先生が無言で彼を見つめる。ききたいことがありすぎて選べないのは隣に座る私も同じだった。
空き教室を出た後、皆の目を盗んで私と氷泉先生に声をかけたのは葵くんだった。
喉から手が出るほど説明を求めていることも想定の内だったのだろう、彼は時間と場所だけを小声で告げると、すぐに前を歩く小野田さんに届くほどの音量で私に「部室に寄ってから教室へ迎えにいくね」と存在しない帰る約束をほのめかした。
指定された時間より早めに化学準備室へ行くと葵くんは既にソファで膝を組んでいた。
「早いね」
書庫から勝手に取り出したのか知恵の輪を手に微笑む彼に言葉を選び損ねていたところに氷泉先生は現れた。話し合いの後、私はまだ先生と一言も話していなかった。
葵くん、と私は口を開いた。
「先生と私……ばらばらに呼び出されたのにどうして二人の関係について話をきかれるってわかったの? それにあんな嘘……この携帯だって……葵くんは始めから全部知ってたの?」
「そんなに一気に質問されても答えられないよ」
おかしそうに目を細める。
気を落ち着かせるように一度深呼吸をした私は一番知りたいことを尋ねた。
「どうして……かばってくれたの」
「どうしてって、二人のことを他言するつもりはないって言ったはずだよ」
「……でも」
言いづらそうにしている態度に察したのか彼は苦笑いをした。
「たしかに僕の要求を拒めないような口振りもした。振り回してごめんね。でも明るみにする気は本当にこれっぽっちもなかった」
「だけど……あの子が持ってた写真は」
「そうだね。雪乃先輩の考えているとおり、小野田さんが持っていたあの写真は僕の携帯にあったものだし、僕が彼女に流したものだよ」
涼しい表情で並べた言葉は相反している。
混乱している私を代弁するように彼は言った。
「二人のことを秘密にしておくと言っておきながら、どうして二人の関係を匂わせる写真を流したのか。それとも自分で写真を流しておきながら、どうして二人のことを否定したのか……ってところかな?」
「どういうこと……? 矛盾してるよ」
「少しは考えてくれなきゃ。じゃあ質問を変えるね。そもそも僕は何故彼女に写真を流したのかな。何を期待してそんなことをした?」
驚いたように先生が呟いた。
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