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「でも……南くんは小野田さんにどうやって渡したの?」 「それは誤送信という体で。送り間違えたから消して、というメッセージもつけてもらいました。人間って不思議なもので消してと言われるとじっくり見ちゃうものなんでしょうね。 南から送られてきた写真に偶然二人が映り込んでいることに気づいた彼女はまんまと僕の期待に応えてくれました。 でも……今思えば、教頭や生活指導といった話が伝われば事態が深刻になりそうな相手ではなく近藤先生や安藤先生を選んだあたり、彼女の中で二人の関係は半信半疑だったのかもしれないですね。 もしくはちょっと痛い目見せてやろう程度だったのか……。愛憎は表裏一体とか言いますし」 大体こんなところです、そう言って彼は一仕事終えたようにふうと息を吐いた。 私と先生はそれから長いこと口をきけなかった。あまりにも情報量が多くて呑みこむのに時間がかかっていた。 葵くんの手の中で擦れ合う知恵の輪の金属音が静まり返った室内に響いている。 先生にコツを教わりながらも構造をろくに理解せずやみくもに解こうとしてしまう癖のある私と違って、彼の指先は丁寧に形を捉えており途切れがちな音は偶然をまるで期待していない。 先を急ぐことなく道筋を見極めるその姿勢は彼自身を表していた。 私は真っ直ぐに彼へ身体を向けると両膝に額がつきそうなほど頭を下げた。 「ごめんなさい」 ぴたりと金属音が途絶えた。
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