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「……何してるの」
「私……葵くんのこと疑った。安藤先生たちからあの写真を見せられたとき……葵くんが流したんだって……疑ったの。本当にごめんなさい」
「それでいいんだよ。先輩は何も知らなかったんだ。それに僕はあの写真を使って先輩を揺すってた、そう考えるのは自然なことだよ。だから顔を上げて」
「よくない。私たちのためにここまでしてくれてたのに……最低だよ」
「すべてを話して二人に協力してもらうことも考えた。それでもしなかったのは先輩に芝居をさせるのはリスクがあると判断したからだよ。小野田さんを意識するあまり変に固くなられて怪しまれでもしたら水の泡だから。だから気にすることなんてない」
彼との友情を見失った自分が許せなくて顔を上げれずにいたら、途方に暮れたようなため息が聞こえた。
「……謝らなきゃいけないのは僕の方だよ」
思わず顔を起こす。彼は悲痛な目をして手元の知恵の輪を見ていた。
「小野田さんの目を逸らすためだったとはいえ先輩を振り回した。それも脅迫まがいなことをして……最低なのは僕の方だ」
「そんな……葵くんは私たちのために、」
「限度がある。僕の言動はあまりに独りよがりだった。先輩に嫌な思いをさせた。必死だったんだ……。本当にごめん」
すべてが明らかとなった今、昨日までの混沌としていた日々が嘘のように薄れていく。
弱々しくこぼす彼に声をかけようとした矢先、でも、と葵くんが窺うようにこちらを見た。
「それでも先輩が許してくれるなら……おあいこで手を打てないかな」
「……葵くん」
「僕、先輩とはこれからも友達でいたいよ」
がた、とテーブルが揺れた。
身を乗り出してぐんと右手を差し出す私に葵くんがぽかんとする。
「仲直りの握手……しよう?」
一拍置いて彼は吹き出した。声に出して笑いながら、
「仲直りの握手って……子どもみたい。それも喧嘩したわけじゃないのに」
「だ、だってこれしか思い浮かばなくて……だめ?」
「いや、うん……いいよ、これで手打ちにしよう」
肩を揺らしながら私の手を握る。
テーブルの上で二、三度上下に揺らしてから彼は手を離した。
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