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「ホットケーキのことですよ。よくそれで雪乃先輩と話合いますね。十も上だと先輩も苦労するなぁ、同情します」 ずいぶんな言い草に思わずむっとしてしまったら、一色がふっと吹き出した。 「能面みたいな顔」 はは、と愉快そうに肩を揺らして笑う。 虚を突かれて見入ってしまった。こんな無邪気な笑顔を見せてくれるのは初めてだった。 「一色」 「はい?」 「……ありがとう」 真顔に戻った彼は一度睫毛を伏せてから微笑を浮かべると、 「謝られるより、ずっといいです」 それだけ言って今度こそ階段を降りていった。 一色を追いかけるために化学準備室を出たのは、彼が部屋を後にした数分後だった。 鞄を取りに教室へ寄ったとしてもとっくに門を出ていておかしくない。バス停まで追いかけるつもりでいた。 その彼が、廊下にいた。 何を眺めるわけでもなく、雨でいっそう冷え込んだ空気を全身に受けながら、ただ呆然と立ち尽くしていた。 彼が立っていた辺りの窓枠に手をかける。 西島への感情が取り残されているようだった。
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