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「だって本当のことだから……」 「だからわかってるって、気にしてないって言ってるじゃないですか」 咎めるような声は言い終える頃には震えていた。 きつく俺を見つめる瞳にうっすらと涙がたまっていく。それはあっという間に瞼を乗り越えて頬へ伝い落ちた。 わかってるんです、涙声で彼女は言った。 「本当に何もないこと……先生はそんなことしない……わかってます、だけど……」 ぼろぼろと流れるもので西島は声を詰まらせた。 今まで必死に堰き止めていたものが一気に溢れ出たかのような泣き方だった。 頭ではわかっているのに感情が追いつかない。逆の立場になって考えてみれば簡単にわかることだった。 こんな思いをさせるなんてーー。 「ごめん……言葉が足りなかった。きちんと説明する」 本当に彼女とは何もない。そんな一方的で薄っぺらな言葉にはなんの意味もない。 西島をソファへ座らせると隣に腰掛けて彼女の手を握り直した。日頃冷えがちな手は熱く耳も鼻先も赤くなっていた。 「唐沢とショッピングモールを歩いてたっていうのは本当だよ」 何かを堪えるように彼女は下唇を噛んだ。 「だけどさっき言ったように偶然会ったんだ。声をかけられたから話はしたけど、俺も彼女も用があったからすぐに別れた。 約束していて落ち合ったわけじゃない。彼女とはもうずっと連絡をとってないよ。 もちろんトートバッグも彼女の元に忘れてきたわけじゃない。ある場所に置いてきてしまったのをそこに勤めている人が俺に届けてあげてほしいと彼女に託したみたいなんだ」 ややあってから不思議そうな目がこちらを見上げた。 うん、と優しく頷き返して頬に貼りついた髪をよける。 「俺も初めは知らなかったんだけど二人は知り合いだったんだ。そのことはモールで偶然会ったときに話の流れで知った。でもだからって何もないよ。ただそれだけ」 大体、と彼女としっかり目を合わせて俺は真剣な声で続けた。 「俺が一日のうちどれくらい西島のこと考えてるか……他の人間にあてる時間なんてないよ」 髪を剥がしていた手で頬を包み込む。 そのまま涙の引いた瞳を見つめていたら、カーディガンの袖口で目元を拭って彼女は強く頷いた。 俺は心の底から安堵してハンカチを手渡した。
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