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ぐっと腕を伸ばして鍵とドアガードをかけて、 「せっかく二人で会える日にどうして中岡なんか……来たとしても絶対に入れない」 「ひどい……友達なのにあんまりですよ」 「西島が来てる日を狙って邪魔しにくるほうがあんまりだよ」 以前、勝手に部屋に上がられたことを根に持っているみたいだ。 そのときのことを思い出して恥ずかしくなった私は笑ってはぐらかした。 「けど、もうずっと会ってないです。久しぶりに会いたいな。お元気ですか?」 「……西島ってそういうところ無神経だよね」 「え?」 別に、と流して彼はスリッパを並べた。 かすかに拗ねてるような口元に首を捻っていたら、先生の頬が白く汚れているのに気づいた。 「先生……何か白いのついてますよ。ほっぺと髪に……あ、洋服にも」 え、と彼は手の甲で頬を拭った。 「お掃除でもしてたんですか?」 「うん……まあ」 そこで黙ってしまったので、私はちょっと困って笑った。 「あの……上がってもいいですか?」 はっとしたように先生は一歩後ろへ下がって道を開けた。 「うん、もちろん」 「先生……本当にどうかしたんですか。やっぱり様子が変です。上の空っていうか……」 いや、と呟いたもののまたそこで黙ってしまう。 部屋へ向かう気配のない様子から躊躇いみたいなものが伝わってきて、たたきに立ち尽くしたまま私は言った。 「よくない……お話ですか」 「え……」 「トートバッグのこと説明するって話してましたけど……言いにくいなら本当に私は、」 「違う、言いにくいわけじゃないよ」 「でも……なんだか深刻そうな顔をしてるから」 「そんな顔してないよ……ただ、その、ちょっと緊張してて……」 緊張? と繰り返そうとして彼が思い切ったように私の腕をくんと引っ張った。 それから微妙に視線を外して、 「……上がって」 先生が緊張だなんて何事だろう。驚きつつ腕を引かれるままにリビングへ向かう。 と、戸口で急に立ち止まった背中に私は顔をぶつけた。
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