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女性と歩いていたと聞いたとき、疑心とともにどうしようもない不安に呑まれた。彼のことを信じる一方でそれは抗えようがなかった。 けれど実際はあんなにも苦手と敬遠していた料理を習いにいっていたのだ。 それも私を喜ばせるために。 再び名前を呼ばれるが返事すらできない。 覆い隠した顔を振ることしかできなかった。 「いいから」 すべてを見透かしたような声だった。 「誤解を招いても仕方ない。不安にさせてごめん」 謝るのは私の方だ。 けれどそれさえも見抜いているように、わかってるから、と彼は言うと、私の両手を少し手間取りながらも降ろした。 転んでしまった子どもを慰めるような眉尻を下げた優しい顔で私の濡れた頬を拭って、 「本当に泣き虫」 「だって……私、まさかこんな、」 言いかけてお腹の鳴る音が響いた。 こらえきれず先生が吹き出す。   それから彼は珍しく声に出して笑い出した。 「ご、ご飯は食べてこないでって言うから……っ」 そうだね、肩を揺らしながらの声は震えている。 「先生、笑わないでください!」 「だって……ごめん、ちょっと待って……ははっ」 恥ずかしさに顔を熱くさせる私をよそにひとしきり笑った彼は深く息をついたかと思うと、仕切り直すように私の片手を持ち上げた。 「うどんじゃなくて悪いけど、よかったら召し上がっていただけますか」 今度は私が笑ってしまった。 先生と出逢った冬の日、嵐山でうどんを食べることになったのも今みたいに私がお腹を鳴らせたためだった。 「もちろん。いただきます」 彼の表情にほのかに緊張が戻ったのを見て、私はまた笑顔をこぼした。
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