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「本当に先生が作ったんですか」 何度目かわからない質問に彼もまた何度目かわからない苦笑を浮かべた。 「だからそうだよって言ってるのに」 「だって……信じられないです、どれもすごく美味しい。お店で食べてるみたい」 「だから言い過ぎ」 お世辞なんかではなくどれもこれもびっくりするくらい美味しかった。 味はもちろんのこと野菜の切り方から火の通り具合、見栄えと何から何まで完璧だ。 グラタンを口に運ぶ。次にオニオンスープ。本当に美味しくて手が止まらない。たった二ヶ月でこんなに料理が上達するなんて。 私が料理を始めた頃はこんなに上手くいかなかった。味はよくても見た目がよくなかったり、その逆だったり。伯母の指導があっても苦労した思い出がある。 感心している傍でスプーンを持つ手が一旦持ち上がってすぐに下がったのを見た私は首を傾げた。 「先生、食べないんですか。もうお腹いっぱい?」 「そういうわけじゃないんだけど……ちょっと飽きがきてるっていうか……」 「まさか……食べ飽きるほど練習した、とか……」 まあ、ちょっと居心地悪そうに彼は首元を擦った。 「さすがに一度教わった程度じゃ習得できないから……それなりに」 「どのくらい?」 「いいじゃん、そんなこと」 「知りたいです」 「……まあ、ほぼ毎日」 キッチンに立って料理の練習をする先生の姿を想像して胸が詰まった。 これだけの品数、時間も労力もかかったはずだ。料理教室ではなく自宅で一人となると手こずることも少なくなかっただろう。 日々の仕事で疲れているにも関わらずこんなにも頑張ってくれていたのだと思うとたまらなくなった。 「嬉しいです、すごく……嬉しくてどうにかなりそう」 ふうん、と彼は言葉少なに頷いた。だけどそれは照れ隠しだ。 私が料理を口に運ぶたびにちらちらとこちらを窺っているのも、美味しいと頬を落とすたびに安堵したような笑顔を浮かべるのも、とっくに気づいている。 わかりにくいのか、わかりやすいのか。大人のようで子どもみたいな先生が愛しくてならない。 「本当にどれも美味しい……それも私が好きな料理と好みの味付けばかり。先生、魔法使いですか」 まさか、おかしそうに彼は笑った。
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