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「それで……どうだった、料理」 「とても美味しかったです。ほっぺたが落ちっぱなしでした」 「ちなみにどれが一番美味しかった?」 「一番ですか? どれも美味しかったですけど……グラタンかな。ホワイトソースが絶品でした」 一拍置いて、そっか、とこぼした彼の表情が沈んでいるように見えて私はマグカップをテーブルに置いた。 「先生?」 「いや、筑前煮が一番好きって聞いてたから……」 「筑前煮が?」 きょとんとしている私の表情に察したのか、彼は困惑した顔つきで言った。 「小夜がそう言ってたんだけど……もしかして違うの?」 「いえ、好きです。大好きです……けど、」 一番の好物と話した覚えはない。 受験に専念できるよう家事を引き受けてくれるという小夜さんから食事について色々と質問を受けたときのことを振り返って――あ、と閃いた。 「もしかして父の好きな物とごっちゃになっちゃったのかも。筑前煮は父の大好物なんです」 「お父さんの……」 「で、でももちろん私も大好きですよ」 「けど、筑前煮が大好物なのはお父さん……」 期待が外れたのがショックだったのか声色にじわじわと落胆の色が滲んでいく。 せっかく作ってくれたのに余計なこと言うんじゃなかった。どうしようかと顔を青くさせていたら、 「……一番好きな食べ物は何だったの?」 私はにっこりと微笑んで言った。 「グラタンです」 息を吹き返したように先生の顔色が明るくなった。 ふうん、と呟いてマグカップを傾ける。その口元は喜びを隠し切れていない。 「だからすごく嬉しかったです。また食べたいな」 「……レパートリー増やしておく」 「それは嬉しいですけど、無理しないでください」 「無理なんてしてない。やってみると意外と楽しいっていうか……喜んでもらえると思うとやりがいも感じるし……」 すっかり上機嫌になった彼の隣で私も同じようにカフェオレに口をつける。 「それにしてもどうして料理なんて思いついたんですか」 え、とあからさまに彼は口ごもった。
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