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「別に……単に思いついただけだよ。西島、食べるの好きだし、それに自炊した方が身体にいいって……あ、カフェオレおかわり淹れようか。冷めたんじゃない」
いれたてのカフェオレはまだ半分も減っていなければ冷めてもいない。
妙な姿に私は首を傾げた。
「先生……何か隠していませんか? なんだか様子が変です」
「そんなことないよ」
否定しつつも目を合わせようとしない。
素知らぬ顔でカフェオレを傾ける彼の横顔をじっと見つめる。
そのうち空になったマグを置いた彼は観念したように私と目を合わせた。
「西島……なんだか眼光が鋭くなった?」
「先生がわかりやすいんです」
「そうかな……」
苦く笑った先生は一度ため息をつくと渋々口を開いた。
「前に……すごいって言ってただろ」
「何がですか?」
「料理できるの……すごいって、一色のこと褒めてた」
「……気にしてたんですか?」
「別にそういうわけじゃないけど……自炊したほうがいいって前から西島言ってたし、そうなれば安心させられると思ったし……だから一色は別に……あくまでもきっかけっていうか……別に張り合ってるわけじゃないから。元々料理できたらいいなとは考えてたし、西島食べるの好きだし、だから、」
そこまで一息に喋り通した彼は急に口をつぐんだ。それからわずかに赤く染まった耳に手をやった。
「……ずいぶん饒舌に喋るって思ってるだろ」
「少し……」
「言ってることも理路整然としてないって」
思わず笑ってしまったら、彼は参ったような表情で天を仰いだ。ふう、と息を吐いて、
「西島のこと……繋ぎとめるのに必死なんだよ、これでも」
「……先生」
「西島の気持ちはわかってる。けど、やっぱり心のどこかでは不安なんだ。いつか俺の元を離れて同世代で話も気も合う人間のところにいっちゃうんじゃないかって……その方が西島にとっていいんじゃないかってときどき考えるんだ」
言葉がでなかった。
不安なのは自分だけだと思っていた。些細なことで弱気になったり、勝手な想像をして怯えたり、路頭に迷うほど心を乱してしまうのは私だけだと。
だけど違っていた。
「……鏡みたいです」
「鏡?」
「私もまったく同じことを考えてました」
悟ったような顔をして彼は私の手を取った。
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