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「私も先生には同世代で価値観の合う大人の人……小さなことでうじうじしてしまう私なんかよりもずっと余裕のある人が相応しいんじゃないかって何度も考えました。だからこそ唐沢さんのことを知ったとき、すごく動揺してしまって……不安で打ち明けられなくて……」 「そんな……俺には西島だけだよ」 「私も先生だけです。同世代がよかったなんて考えたこと一度だってない」 少しでも先生の不安を拭いたくて、そして本心を伝えたくて、手を握り返して私は言った。 先生の家に泊まったあの夜、悪い夢から覚めたようだった。 不安になることなどなかった。怯えることなどなかった。彼の眼差しは変わらず私だけに真っ直ぐ注がれていたのに。 ふと幼い頃に読んだおとぎ話を思い出す。愛する人と結ばれる。人々が憧れ、夢見る物語だ。 けれど幸せな結末の先には一冊の本では描ききれないほどの道が続いているのだと知ったのはいつの頃だったろう。 繋がれた手の指を互いに絡める。 ようやくわかった。信じていようとどうしようもない不安にとらわれてしまうのは先生を失いたくないからこそだということに。 「私には先生だけです」 「俺だって西島だけだよ」 近い距離で見つめ合う。普段なら耐えきれず逸らしてしまうことが多いけれど今は恥ずかしくも照れくさくもなかった。 どちらからともなく私たちは互いを抱き締めた。 広い胸へ頬を寄せた私の髪を温かな手が確かめるように幾度と滑る。私が密やかにこぼしたものと似た深い息が髪に降りかかる。 背中に回した腕に力をこめれば息が苦しくなるほど強く抱き寄せられた。
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