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預けきった身体に先生の体温が伝わってくる。 私たちはいつから互いがなくてはいられなくなったのだろう。 「西島」 硬さのある声に私は一瞬息を止めた。 意を決してから顔を上げる。 覚悟はできていたのに、すぐそこにある瞳は逡巡するように定まっていなかった。薄い唇は何か言いかけてまたすぐに閉ざされる。 その躊躇いが嬉しかった。 身体を離して私は声を振り絞った。 「私と別れてください」 凍りついたみたいに彼は動きを止めた。 「……西島」 「会うのも今日が最後にします。連絡もしません。生徒に戻ります。私なら平気です。だからそんな顔しないでください」 先生は深呼吸をするように肩で大きく息を吐いた。 ごめん、そう呟いて額に手を当てる。 「……言わせてごめん。俺が言うべきなのに……」 ーー氷泉先生を滅ぼすのは僕でも周りの人間でもない。先輩自身だよ。そして先輩を滅ぼすのも先生だ。 葵くんの諭すような冷静な声が頭にこびりついている。 関係を知られてからというもの先生との関係を解消するべきだと彼は再三仄めかしていた。 葵くんの言うように臆病だった私は聞き入れることはなかったが、見逃すだけではなく立ち回ってくれていた彼が見据えていたものは起こりうる現実だった。 だからこそ彼は私たちが自分の甘さに気づき、今一度立ち止まって互いの立場を見つめ直すことを望んでいた。 私はーーいや、先生も目を逸らしていた。 それは互いを守る唯一の術だったというのに。 二人の関係を知った人間が葵くんだったことは幸運だった。だけど次はもう言い逃れできない。
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