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でも……、言いかけて彼はこちらを見た。気がかりな瞳が私を映している。 元々受験に集中するために冬に入ったら距離を置くという話はしていた。それが少し変わっただけだ。寂しがることはない。学校では顔が見られるのだから。 だから大丈夫。――そう伝えたかったのに、どうしても笑顔を作ることができなかった。 ただ会えないのと関係を断ち切るのではまるで違う。 私は俯いていた顔を上げた。 「お願いがあります。卒業したら先生に会いにいくから……もしまだ好きでいてくれたら、そのときはまた私とつき合ってください」 こらえたつもりだったのに最後の方は声が震えてしまってちゃんと言葉になっていたのかわからない。 だけど先生は深く息を吐いたかと思うと再び私を強く抱き寄せた。 何それ、という笑い混じりでいてどこか不満そうな声は私の不安をも見抜いているようだった。 彼は一度私の頭をぽんと撫でると真剣な口調で言った。 「待ってる」 その後はソファで互いの身体に寄りかかったまま片時も離れず過ごした。 いつか江の島にある江島神社や岩屋洞窟へ行って、しらす丼を食べたいという私に先生は笑って頷いてくれて、展望灯台も行きたいと話す彼に私も二つ返事で頷いた。 それから他愛もない話は京都で出逢ったときのことに遡り、英語圏の観光客から道を尋ねられて対応に困っている私を助けてくれたのはやはり先生だったと知った。 そして私はそれが彼との出逢いであると思っていたのだけれど、実はその直前にコンビニの前で転んでしまった私の荷物を彼が拾ってくれていたという事実を聞かされた。 初耳の話にどうして今まで教えてくれなかったのかと抗議したら、いつかのタイミングで話してびっくりさせようと考えていた、と悪戯を企む子どもみたいに楽しそうな顔をして先生は笑った。
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