12

14/14
前へ
/424ページ
次へ
話が尽きる気配はなかったけれど、家まで送ってくれるという彼の車に乗り込むと自然と言葉は途切れがちになった。 こんなときに限って車道は空いていて赤信号に掴まることもなく車は自宅マンションへ着いた。 前方で運送会社の制服を着た男性がトラックから降ろした荷物を台車に積んでいる。 その脇を携帯電話を耳に当てた女性が通り過ぎてエントランスへ向かう。 それと入れ違うように流行りの眼鏡をかけた大学生くらいの男性がロビーから出てきて、鉢合わせた女性に軽く会釈をしてから駅の方面へ歩いていった。 こんなありふれた光景も互いがいるだけで日常からかけ離れてしまう。私たちがそこへ行くには時間が必要だった。 さようなら。気をつけて。短い挨拶を交わして私は車から降りた。
/424ページ

最初のコメントを投稿しよう!

350人が本棚に入れています
本棚に追加