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「卒業おめでとう」 「ありがとうございます」 白地のネクタイを見つめながら会釈する。 次いで礼服の黒いスーツに視線を流していたら笑い声が降ってきた。 「こっち見てくれないの」 心臓が破裂しそうなほど強く打った。 あんなにも待ち焦がれていたのに、いざとなると恥ずかしさが勝ってしまう。振り出しに戻ってしまったみたいだ。 西島、と呼びかけられ、熱くなった顔を上げる。 目が合うとほっとしたように彼は表情を崩した。 「大学も。改めて合格おめでとう」 「ありがとうございます。……M大は落ちちゃったけど」 「こっちの特色の方が西島には合ってるよ」 波音に誘われて眼下に目を向ける。 穏やかな波間が光を反射してきらきらと輝いている。この街へ引っ越してきたからというもの私はこの光景に目を奪われ続けている。 M大の合格発表で自分の番号がなかったときは落ち込んだけれど、反面どこかほっとしている自分もいた。 それはきっと彼の言うようにY大学の方がずっと魅力を感じていたからで、そして同時にこの街から離れたくなかったからだろう。 「……そうだ。これ、お返しします。すごく心強かったです」 博人さんと小夜さん、そして先生へと引き継がれた合格祈願のお守り。 受験勉強の際は机に飾って、入試の際はブレザーの胸ポケットに入れていた。 「効果あったかな」 「抜群にありました。何度も励まされました」 手渡そうとして指先が触れた。 はっとして慌てて手を引く。一瞬のことだったが彼はそれに気づいたようだった。 西島、と笑い混じりの声。 はい、とそれに返す私の声は上擦っている。 「目、真っ赤」 咄嗟に顔に手をやった。 「擦っただろ」 「だって……」 そう返すなり、先生の指先が目尻にそっと触れた。 突然のことに心臓がまた大きく跳ねる。 「痛そう」 「大丈夫です……。それより、あの」 「うん」 早く確かめたいのにいざとなると言葉が出てこない。 それでも思い切って視線を上げたときだった。
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