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「もう出てきて平気なんですか?」
「出てこれるの知ってたら花束用意したのに」
皆が皆、花が咲いたような笑顔で駆け寄る。
一斉に群がってきた生徒に先生は驚いたように後退りしたけれど、心配かけたな、と苦笑いを浮かべて一人一人の顔を見るその瞳は嬉しそうだ。
彼がこの場所にいることに胸が熱くなった。
「氷泉、退院したのね」
くるりと振り向いた美香ちゃんに鼻声で「うん」と頷く。
「仕事に出てこれたってことは検査問題なかったんだ?」
「大丈夫だったみたい」
「そう……ったく人騒がせなんだから」
棘のある口調に反してその眼差しは柔らかい。
日頃から毒を吐くことの少なくない彼女だが心配しないわけがない。
HR始めるからもう戻れ、と人だかりを捌こうとしている先生を遠巻きに眺めていたら千秋ちゃんがバンっと身を乗り出した。
「何してんの二人とも! ひー先生んとこ行かないの!?」
「だって、もうHR始まるし……」
「別に逃げやしないんだから昼休みでいいわよ」
「先生が戻ってきたのに嬉しくないの! 二人とも冷たくない!?」
「朝っぱらからキャンキャン騒がないでよ。昼休みでいいって言っ」
どこにそんな力があるのか彼女は私と美香ちゃんの腕を掴むなり強引に教壇へ引き連れた。
興奮冷めやらずの生徒たちの中で「ひー先生!!」と一際大きな声で叫んだ千秋ちゃんへ先生が振り向く。
「退院おめでとう! ずっと会えなくて千秋たち、すごーく寂しかったんですよ。ね、二人ともっ」
「う、うん」
ぎこちなく頷く。
先生は三人の顔を順に眺めたかと思うと何故か私で視線を止めた。
真っ直ぐに見つめられ、じわじわと頬が熱くなっていく。
やがて彼の口端が面白そうに上がった。
「久しぶり。三人とも元気だったか」
……久しぶり、だなんて。
わざとらしい口振りに私はきゅっと口を結んで小さく頷くだけだった。
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