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やや古びたスピーカーから流れる流行りの曲、それに重なる雑談、窓から入り込む柔らかな日射し。 普段と変わらない昼休みの光景。ただしそこにいつもの私の姿はなかった。 「雪ちゃん、またぼーっとしてる!」 「――あ、ご、ごめん」 「もう。もう一度最初から話すね。昨日ね、伊東くんと入ったカフェで運ばれてきたメニュー表が――」 彼女の惚気話に意識を集中させつつ真っ赤に艶めくプチトマトを口に運ぶ。 ところが甘い酸味は再び私を夢心地にさせた。 HR中の先生の姿が頭から離れずにいた。 落ち着かない雰囲気の中、彼は淡々とHRを進めた。 号令、出欠確認、連絡事項、号令。すべてはいつもどおり。 誰にも表情を盗まれない窓際の一番後ろという特等席から私はその姿を眺めていた。 先生、今日も眠たそうだったな。 思わず笑みがこぼれる。 気だるそうな佇まいも、高くもなく低くもない歯切れのいい声も、涼しげな黒い瞳も、何を考えているかわからない表情も、すべてが今まで以上に愛しく感じる。 まさか私のことを想ってくれていたなんて夢を見ているみたいだ。 突然頬に衝撃が走って「痛っ」っと悲鳴を上げた。 美香ちゃんが、あれ、という顔をする。 「強すぎた?」 「いきなり何……」 「つねりたくもなるわよ、そんなにニヤけられてたら。何かいいことでもあった?」 一拍遅れて首を振った。 「ーーないっ。全然ない。いいことなんて一つもないっ」 「全力で否定するところがまた余計に怪しいわね」 「そんなことないって」 しどろもどろになりながら卵焼きを丸ごと口に放り込む。 突き刺さるような視線を感じながらもぐもぐと口を動かしていると、スカートの中で携帯が振動した。 ――もしかして。 期待に胸を躍らせながら携帯を開く。メールの送り主は伯母だった。 残念に思いつつ顔を上げて――美香ちゃんが私の手元を凝視しているのに気づいた。
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