第1話

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金曜日の放課後と土日の休みに図書館へ行くのが、僕の唯一の趣味だ。 別に、読書が好きなわけではない。むしろ読書なんていうのは、たいていの場合、読む前に挫折してしまう。いや、まず読むことすらしていないのだし、挫折とは少し違うかもしれない。読もうと思って、図書館から借りてくるわけでもないし。 僕が本を借りてくるのは、都合を合わせるためだ。だって頻繁に通っているのに何も借りないで帰ると、しわくちゃで痩せこけた受付のおばあさんに睨まれてしまうから。僕は巧妙な読んでいるフリをしているのだけど、あのおばあさんはどうも勘がいいらしく、本を読んでいないことを見抜いている。 もしも受付のおばあさんに出入り禁止を言い渡されたら、と考えると恐ろしいので、僕は図書館では何を借りようか見極めているフリをすることにしている。そして二、三冊ほどを受付台にそっと置くのだ。そうすれば、受付のおばあさんはしわをより一層深くまで刻み込み、優しく微笑んでくれる。 僕は洋服とゲームソフトで荒れ果てた自室のテーブルに置いてある、図書館から借りてきた二冊の本を眺めた。 宮沢賢治著『銀河鉄道の夜』、これはきっと、月に行きたいと願った少年がロケットは危なっかしいからと、宇宙の車掌さんになる物語だろう、僕の趣味ではないな。 僕は引きこもりがちだから鉄道オタクとか、ゲームオタクとかと勘違いされがちだ。しかしあくまでも精神と肉体の休息を取っているだけで、オタクなどと一緒にされるいわれはない。さらに突き詰めてやれば、引きこもりがちなら、電車なんて見られないのだ。まぁ、鉄道オタクでしょ、なんてピンポイントで当ててくる人には出会ったことがないけど。ゲームの方は、まずまず、嫌いではない程度だ。 ツルゲーネフ・イワン著『はつ恋』。他人の色恋沙汰に興味を持っている場合ではない。これも返却しよう。 僕は『銀河鉄道の夜』と『はつ恋』をリュックに放り込んだ。 僕はリュックを背負って、僕の通う高校から一番近い小さな図書館へ出かけた。
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