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外は思っていたよりも肌寒く、もう一枚くらい中にシャツを着てくればよかったと後悔した。僕は黒のダッフルコートのポケットに手を突っ込んだ。格好つけているようで、なんとなく恥ずかしい。
恥もせずマフラーで繋がる喧しいカップルがいたので、そのまま転んで首をしめてしまったらどうか、とテレパシーを送る。
空は甘ったるい生クリームを塗りたくったように真っ白で、僕に木枯らしを吹き付ける。振り向いてみれば、あのカップルは木枯らしなど気にもとめない様子で談笑している。バナナの皮でも落としておけばよかった。持て余した中身のほうは、生クリームみたいな空に突っ込んでしまえばいいのだし。
そろそろ通学に使っている駅に着く。いつも通り、彼女はいるのだろうか。日曜日だから、きっといるに違いない。
僕は気を取直して、足早に切符売り場に寄った。
〇
図書室に足を踏み入れた途端、例の受付のおばあさんが首を百八十度回転させて、僕に視線を向けてきた。僕は恐る恐る頭を下げ、半ば逃げ込むようにして、彼女の姿も確認せず奥の本棚に身を隠した。
ここに来た以上は、目的を果たさなくてはならない。本棚の影に隠れつつ、本をめくりながら長テーブルに目をやる。
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