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つるの絡まった、刺々しく邪悪な雰囲気を放つ、魔女の館が見えてくる。
その館の窓から、彼女と、どこかで見たことのあるしわくちゃで痩せこけた魔女の様子がうかがえる。色とりどりのドーナツが積み上げられたテーブルをはさみ、何やら話をしている。話の内容までは分からないが、彼女はひきつった笑顔で受け答えをしている。
もっと近づきたかったけど、魔女の館の周辺には取り囲むようにして、恐ろしい勢いで風が巡り続けている。少しでも触れようものなら、風である僕は一瞬にしてその流れの一つとなってしまうだろう。そうなれば、僕は永遠に魔女の起こす惨劇を眺め続けることになる。そんなことは嫌だ、けど彼女を救うには、どうすればいいのだ……。
彼女は魔女に勧められた、どす黒く不気味な赤色をしたドーナツを食べさせられると、眠ったようにして椅子から転がり落ちた。悪い薬を混ぜられたのだ!
魔女は彼女の短い、実に短く可愛らしい前髪を引っ掴み、鍋へ放りこもうとする。彼女は顔中汗まみれになって、絶えず泡ぶくの弾ける鍋の上で宙ぶらりんにさせられている。
やめてくれ!
気がついたら、僕は魔女の館に向かって飛翔していた。
熱い! 痛い! 地獄の如き熱風が、僕の全身を切り刻み、侵食していく。それでも僕は助けに行かなきゃ! 彼女のない人生なんて、歩んでいても意味がないんだ! 目的のない道をふらふらするなんて、それは散歩にしか過ぎない!
風はごうごうと音を立て、僕をさらに痛めつける。
魔女がおかしそうに振り返り、僕を睨んで笑った。そして笑いながら、彼女の前髪をハサミでちょん切り、煮えたぎる鍋へと放してしまった。
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