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僕は行かなくちゃ! このままでは、彼女は僕よりも熱く、痛い思いをする! 彼女との人生を終わらせたくない!
「通してくれよ!」
「ずいぶん、一生懸命に読書するんですねぇ」
顔を上げると、そこには愛しき彼女の顔があった。つい抱きしめてやろうとしたが、ここが図書館であることを思い出して魔の手を引っ込めた。あやうく受付のおばあさんに、通報されるところであった。
ああしかし、僕はいま彼女と向かい合って、話をしている! いや、僕はまだ何も発言していないか……。さて、なんと言ったものだろうか。
「読書、お好きなんですね」
「だ、大好きです、はい!」
僕は開口一番、そう告白した。まだ名前すら知らないのに! 僕はなんて勇敢なのだ! 周りの、本を選んでいた人や長テーブルで読書をしていた人たち、そして受付のおばあさんが、称えるように僕を見つめている。
「でもここは図書館ですから、くれぐれもお静かに……ですよ」
彼女はメガネ越しに、慈悲深く瞳を細めた。
受付のおばあさんが、僕の方に向かって杖をつきながら歩いてくる。……あの魔女のような顔つきで。
それから僕は、毎日本を読むようになった。ついに図書館から出入り禁止を言い渡されてしまったので、仕方なく家で読書を楽しむことにした、というわけではない。いくら本の面白さを知ったからといって、僕の目的は揺るがない。最初から、変わっていない。
彼女に会いに行くために、僕は読書をするのだ。
本で余計に荒れた部屋のテーブルの、軋む椅子に腰をおろし、僕は今日も涙ながらにページをめくる。
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