光らないビー玉

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「おじゃましまーす……」 小さな声を出して、その部屋に入る。入って、すぐ本棚が目に入る。 「本だらけじゃん」 がたがた。 物音が本棚の奥から聞こえた。誰かいるのだろうか? ゆっくりと床に積まれた本を蹴り飛ばさないように近づく。大きく古いアンティークの時計の脇をすり抜けて、奥へと進む。 本棚が所狭しと立ち並ぶ中、あたしは動けなくなった。 それは目の前の少年のせいだった。 「香川恭平くん、だよね?」 「へ? お! うあ!!」 机の上に乗っかっていた香川恭平は体勢を崩して転げ落ちた。 「大丈夫?」 「……」 何もしゃべらず、埃を払う香川恭平。その黒い髪まで埃がついて、見ていると少し面白い。 だけど気にかけてやったというのに返事もない。 あたしはむっとして彼が手に持っていたものを奪った。 「あっ!」 「へー、自殺しようとしてたんだね」 先端が結わえられたロープ。 あたしは首吊り用のロープをカウボーイのように頭上で回した。 「だまれ」 教室で聞いたことのない彼の声に、背筋がぞくっとした。 「自殺して何が悪い」 彼は淡々と呟く。 「あたし、演劇部入るから。死ぬならこの棟じゃなくて自宅とか、近所の森とか樹海辺りに行ってきたら? めんどくさい」 あたしはロープを彼の首にかけると、きゅっと引っ張った。 彼が慌てて隙間に手を入れ、締め付けられないようにした。 「あはははは、可笑しい。自分死のうとしてたのに、何抵抗してんの?」 「……だ、だまれよ」 激しく頬を紅潮させる彼はじたばたと抵抗を始めた。 そんな態度にむずっと来て、矛盾した彼をあざ笑った。
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