君恋1-1

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「そういえば、今日も店長目当てのお客さん、来てるっぽいっスよ♪」 「それはどっから仕入れてくる情報だ?」 「え? コレコレ」  言いながら自分の目を指差す彼に、俺は眉間に皺を寄せた。 「……見て分かるもんなのか? それは」 「大体は。女の子の熱い視線は半端ないっスからね~。それに気付かない店長も、ある意味凄いと思いますけど」 「俺はお前と違って自惚れてなんかないからなあ」 「自惚れっていうより、これは勘がイイかそうでないかの違いだと思うっスよ」 「お前……何が言いたいんだ?」  ギロッと鋭い視線を向けたが、相手は既に扉を開けて逃げた後だった。  本当に勘の働く奴だ。  溜息混じりにエプロンを取り替えて、俺は鏡の前に立った。  あれから数日が経過したことで、寝不足はそれなりに解消されている。――と思いたい。  もう吹っ切れたと思ってはいても、それはただの強がりに過ぎなくて……。 (っていうか、女々し過ぎないか? 吹っ切る時ってどうすりゃ良かったんだっけ……)  寝不足は解消されても表情が暗いままでは客の前になど出られるわけがない。  冴えない自分の顔を鏡越しに見ていたらもっと気分が滅入りそうで、俺は顔を洗うためにトイレに寄ってからカフェフロアへ行こうと決めて、スタッフルームを静かに出た。
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