君恋1-1

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 今居る客が帰ったらカフェフロアを閉じる予定だ。 「あ! 店長さん、店長さん!」  声のした方を振り向くと、少し離れたテーブルからこっちに手を振っている二十代半ばといったところの女性客ふたりと目が合った。  俺は手にしていた布巾をひっくり返して綺麗な面を外に向けてから、その女性客の待つテーブルへ歩を進めた。 「いらっしゃいませ。お呼びでしょうか?」  軽めのお辞儀をしてから尋ねると、待ってましたと言わんばかりにキャーッと声を上げられ、体がビクリと後方へ跳ねた。  この手には何度も遭遇しているが、全く慣れない。 「彼女に誘われて初めて来たんですけどぉ。今日はもう会えないかと思っちゃいましたよ」  彼女というのは向かいに座る友人のことだろう。 「ね? カッコイイでしょー? ――私もこの前友達に教えてもらってこっそり何度か来てるんですけど、なかなか声掛けられなくって」  後半の言葉は俺に投げ掛けられたもので、正直どう返せばいいのか悩む。  あの小笠原なら卒なく返すのだろうが、俺にそんな技術はない。
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