君恋1-1

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 考えられるとしたら、照れ隠しのつもりで付け加えたもの。  下からじっくりと、ねっとりと? 見上げてくる瞳。 (これが小笠原が言っていた熱い視線ってやつか)  四つの目を避けるように俺は一歩後ろへ引く。 「今は仕事が楽しいので、恋人は作る気ないんですよ。あなた方のようにいつも足を運んで下さるお客様なら随時募集中ですが」  微笑みながら半分冗談めいた口調でそう告げると、彼女たちからハァという熱い吐息のようなものが発せられた。  気を害した様子は見られないから、きっとこのまま離れても大丈夫だろう。 「他にご用がなければ失礼します」  また軽めのお辞儀をして、残りのテーブルを拭きに足早に離れた。  本当なら、もしかしたら、少し前に恋人が出来ていたかもしれない。  望みはやっぱり薄かったし、案の定実りはしなかったが……。
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