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忘れもしない。
俺が失恋した日のことだ。
――「ほら、話してみなよ」――
首を振る俺に詰め寄る神条さん。
思わず告白してしまいそうになるのをグッと堪えた。
――「もしかして、恋の悩み? それなら俺に話してみなよ。先輩として、アドバイスくらいはできると思うから」――
この言葉に、俺の中で何かが崩れた。
神条さんは仕事で日本を離れることが多く、その日は彼が帰国して間もない日のことだった。
“先輩”って……?
と、震える声をなんとか抑えながら小さく尋ねた事を覚えている。
そして知ったのだ。仕事先の外国で、彼に恋人ができたことを――。
それからのことは良く覚えていない。
どうやって店から家まで帰ったのか……。
気が付いたらベッドの中で丸くなっていた。
(告白さえできなかったなんて、虚し過ぎるだろ俺)
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