君恋1-1

12/44

931人が本棚に入れています
本棚に追加
/276ページ
 忘れもしない。  俺が失恋した日のことだ。  ――「ほら、話してみなよ」――  首を振る俺に詰め寄る神条さん。  思わず告白してしまいそうになるのをグッと堪えた。  ――「もしかして、恋の悩み? それなら俺に話してみなよ。先輩として、アドバイスくらいはできると思うから」――  この言葉に、俺の中で何かが崩れた。  神条さんは仕事で日本を離れることが多く、その日は彼が帰国して間もない日のことだった。  “先輩”って……?  と、震える声をなんとか抑えながら小さく尋ねた事を覚えている。  そして知ったのだ。仕事先の外国で、彼に恋人ができたことを――。  それからのことは良く覚えていない。  どうやって店から家まで帰ったのか……。  気が付いたらベッドの中で丸くなっていた。 (告白さえできなかったなんて、虚し過ぎるだろ俺)
/276ページ

最初のコメントを投稿しよう!

931人が本棚に入れています
本棚に追加